夏の漬物

旅から戻ってきて、終わりが見え始めた夏を謳歌すべく、夏の間にやっておくべきことをテキパキと済ましていっている。

今日は柴漬けを漬け込んだ。
この数年、夏になると漬けているが、僕は柴漬けを漬物の王者と捉えている。そのままの味は勿論、他の料理の口直しでも爽やかだし、お茶漬けにしたものの美味さなんて!

もちろん、季節ごと、そして献立の取り合わせによって美味しいと感じる漬物はいろいろあるが、基本的に柴漬けの美味しさが一番だと思っているし、漬け込む楽しさも格別だと思っている。



今日は朝から安い野菜を買い求めて、この夏の大一番だと思って柴漬けに取り組んだ。その過程を記しておく。

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材料は赤紫蘇、茄子、胡瓜、生姜。
正調の柴漬けは紫葉漬けとも言い、紫の葉っぱの漬物である。伝統を重んじるものは赤紫蘇と茄子だけで漬け込むそうだ。
しかし、胡瓜や生姜も入っているものが僕は好きだから、それらも加える。茗荷も美味しいが、かさの割にとても高い野菜だから柴漬けには加えない。裏庭でニョキニョキ生えたものがタダで沢山あるならば間違いなく加えるのだけど…。


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まずは紫蘇を塩揉みする。
塩をぶっかけてグシャグシャと力強く揉み込むのだ。
そうするとワサッとあった紫蘇もシオシオとわずかの量になってくるので、とにかく沢山の赤紫蘇を使う。

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赤紫蘇を揉み込むと、紫の茄子のような色の灰汁を含んだ液体が沢山出てくる。それでも揉み続けて、十分に紫蘇の葉がクタッとなったら紫の灰汁汁を捨てて軽く水洗いする。洗いだ赤紫蘇の葉は軽く水気を切っておく。

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続いて、この紫蘇に梅酢をまぶす。
そんなに量はいらない。
僕は今年初めて漬けた梅からあがった梅酢を使用した。

すると、どうだろう!
紫蘇は紫ではなくきれいな赤い紫蘇色に発色するのだ。
紫蘇の下準備はここまで。


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続いて野菜を切っていく。
茄子はヘタの硬いところは落とすけど、なるべくヘタ自体は残すようにする。ヘタ周辺に色素成分が多く含まれていて、柴漬けの発色には紫蘇だけでなく、茄子のヘタ周辺も欠かせられないらしい。


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そして胡瓜はタテ半分に割り、タネの周辺を取り除いてしまう。何年か前にこれをサボって漬けたところ、塩加減も弱かったのだろうけど、ひと樽ダメにしてしまったことがある。

タネの周辺は妙に柔らかく水気が多い。全滅を招いてしまった時はグジュグジュとしたタネ周辺の部分から傷んでいったものだと、僕は見ている。

柴漬けは他の漬物に比べると原材料費が高く付く。買ってくることを思えば、自家製なんてとても安いのだけど、やはり高い。

白菜漬けはひと樽で白菜漬け2つか3つで沢山つけることが出来る。数百円分の白菜で一冬を十分に楽しめるほどの量の白菜漬けが生まれる。

それに対して柴漬けはいろいろと野菜も入れるし、安いものを探してきても、ひと樽作るには2,000円くらいはかかる。安価なものが入手出来ないと簡単にその倍くらいかかってしまう。だから僕は安いものを手に入れられるまで柴漬けは漬けない。しかし、安価な野菜で漬けたとは言えども、これが全滅する時は本当に悲しい。


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あとは刻んだ野菜をバラバラと樽に詰め込んでいく。
生姜は大きなものは切るし、小さなものそのまま樽に入れる。途中、塩揉みした赤紫蘇も加えていき、茄子、胡瓜紫蘇、生姜の層が幾重にも重なるように積み上げていく。
そうそう!赤紫蘇はすべて加えない。
後でまた足すので半分くらいは避けて、冷蔵庫で保存しておくことを忘れてはならない。

樽に詰める際に大切なのは塩をしっかり入れること。
すべての漬物に言えることだけど、漬物は野菜と塩の乳酸発酵の芸術品だ。

バサッと入れることを躊躇していては前述の「ひと樽全滅」を招くことにもなる。しかし、強すぎると乳酸発酵がなかなか進まず、なかなか仕上がらないという状況も招く。

僕は漬物を漬ける際、これまで分量など量らずにザッとした感覚でやっている。
こうした感覚を自分の体で覚えることが本当の勉強だと思っている。従って、ここにその量も書かないし(と言うか量っていないから書けないし)、体得するために今年もザッとした感覚に頼った。

Don't think, Feel !
まさにそのものである。


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あとは重石をして、乳酸発酵を待つ。
ただそれだけ。
重石となる石は自ら河原に出掛けて拾ったものでないと味が出ない。石から発せられるオーラのようなものが、野菜の発酵を促すらしく、京都大原の老舗も加茂川の河原の石を使用しているそうだ。嘘だけど。

夏の暑さと野菜と塩が、手に手をとって発酵を進めてくれるのである。本当にこのままずっと放っておくわけではないが、しばらくは経過を見守るだけだ。このあとの仕込み過程はまた今度。