ちゃんとした食事

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今夜、スパゲッティナポリタンを久しぶりに作った。
ピーマンや玉葱、ソーセージが入り、ケチャップで味付けしたクラシカルなものだ…、とそいつを作りながら考えた事を記しておく。



今日はちゃんとしたナポリタンを食べたいと思った。何を持って「ちゃんとした」と言うのか分からないけれど、僕の中での「ちゃんとしたナポリタン」というものはケチャップで味付けしたもののことを指す。

何なら麺はアル・デンテなどである必要もない。
茹で上げたソフト麺のようなやつを、たっぷりの油とケチャップの赤味で仕上げたやつ!やたらにふっくらとしたフォークで掴み上げたら千切れてしまうような麺にタバスコをかけて大人な気持ちになって食べるやつ。

これにはパルメザンチーズではなくて、混ぜ物も多い「粉チーズ」をかけて食すのが礼儀である。口の周りにケチャップ油が纏わりつくやつだ。それが「ちゃんとしたナポリタン」のように思うのだ。


スパゲッティナポリタンにおいて「ちゃんとしたもの」と「美味しいもの」は同一のものではない。伊丹十三には許して貰えるわけのない昭和の喫茶店メニューのような下世話などうでもいいケチャップの味のものを食べたかったのだ。


そもそも僕はケチャップが好きではないから滅多にケチャップを買わない。買っても使い切ることなどなく、そのうち冷蔵庫の中で邪魔になるので捨ててしまう。

けれど今日はナポリタンのためにわざわざケチャップを買ってきた。

結果的には少しでも美味しいものを食べたいという欲が出てきて、フレッシュトマトを加えたりチャービルを刻んだりして、そして肝心のトマトケチャップも控えめにしてしまったりして、あまり昭和テイストのナポリタンにはならなかったのだけど…。


さて、そんなどうでもいい手間をかけて、一応どうでもいいナポリタンを作ったのだけど、調理をしながら「そもそも、ちゃんとしたナポリタンってなんだ?ナポリタン自体、ちゃんとしたものでも無いだろうよ…」そんな風に思ったのだ。

何かの料理を作っているようだけど、インスタント調味料を使っての簡易料理だ。

ナポリタンを作りながら、調理や献立における「ちゃんとた料理ではないのにちゃんとした風な市民権を得た料理」は他にどんなものがあるのか考えてみた。

そしたら次から次へと出てくるではないか!



ピザトースト
これはピザに憧れた人が考えついたものだろうけど、よく出来ている。合理性に溢れているけど、所詮代用料理だ。事実、僕の家庭でも40年くらい前のことだけど、ピザを食べることは滅多になかったのにピザトーストはよく食べた。そして、それが大好きだった。


カレーライスについても、化学調味料のたっぷり入ったルーで簡単に火を通した肉や野菜を煮込んだものなんて、何も本格的ではない。ルーのパッケージとか宣伝コピーに「本格的」とかの言葉があるけど、インスタント食品のくせになにを言っているのか分からない。そもそも、印度料理をカレーと呼ぶのか、欧風のものをカレー呼んでいいのか?カレーという食品はそんな探究心を呼び起こす程のルーツが気になる食品でもある…。


そんなことを思い始めると、現代の家庭の食卓…というか炊事風景なんて「ちゃんとしたもの」なんて絶滅危惧種なのだろうと気付いた。

キューブ状のコンソメで味をつけることが家庭で洋食作る際に欠かせなかったり、カツオ風味の科学的な粉を加えないと和食としても味が足りないと考えたり…。

そもそもスパゲッティの麺にしても、どこかのメーカーが工場で大量生産した工業製品だし、スパゲッティの乾麺を茹でてケチャップで味付けしてナポリタンを作って食べることと、袋織の縮れた油揚中華麺を粉末スープでラーメンにして食べることの間には殆ど差なんてなくて、両者はほぼ同一の行為であることにも気が付いた。


何を持って「ちゃんとした料理」と言えるのだろうか?

寿司ならば、簡易的に酢を白飯にまぶして魚の切身を乗せたものなんてインスタント過ぎて許されないものなのだろうか。やはり生魚と麹を発酵させて出てきた酸味でなくてはちゃんとした寿司と呼べないのだろうか?

おでんをちゃんと作ろうと思ったら、蒟蒻芋を買ってきて蒟蒻を作ったり、魚をすり潰して練物を作るところから始めなくては「ちゃんとした」とは言えないのだろうか?そんなちゃんとしたオデン種を化学調味料で煮込んでいたらやはりちゃんとしていないものになるのだろうか?

盛り合わせにして売られていた刺身を買って来て、発泡スチロールのパックのまま食卓に出すのと、出来合いのコロッケとキャベツの千切りを買って来て皿に乗せて食卓に出すのと何が違ってどちらが「ちゃんとしている」のだろうか?

今夜はこの答えは到底見つけられそうにない。

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※本格的にちゃんとしていない製品。
しかし、こんな広告が僕の生活環境には溢れている。
あたかも「ちゃんとした料理を求める人はこれを選ぶべきだ!」という訳の分からん主張がなされていて、とても面白いと思う。