久しぶりにマズいものを食べた。

ゴールデンウイークが始まって、早速東京に出掛けた。

目的は息子の下宿に本棚を設置して下宿設備を完了させることと、息子の下宿で友人を交えて食事をするためだ。

下宿の様子やこの日の食事のことはまた別の機会に記すかと思うのだけど、今日は久しぶりにマズいものを食べたのでそのことを書く。

普段、僕は大抵自炊したものを食べていて、それは全て美味しい。料理をするなんて30年以上になるのだから、自分を納得させるだけのものを作るのなんて訳ないし、味見を全くせずに作るわけではないので、仮にマズいものになりそうであっても途中で軌道修正されるため、マズいものは滅多に出来上がらない。

作るのがとにかく面倒でテキトーに料理をした時には「すごく美味しいもの」ではなく「普通に食べるもの」くらいのレベルのものを食べることもあるが、この数年は「マズいもの」なんて食べた記憶がない。


さて、そんな僕が久しぶりに出会ったマズいものがこちらだ。

埼玉に行くとそこらで見かける「山田うどん」だ。
15年位前に行ったことがあるのだが、どんなものを食べてどんな味だったかの記憶はない。もしかしたら、実際には行っていないのかも知れない。

そんな山田うどんには「友人が車で来てきたので、車でしか行けないようなところで食事をしよう」との流れから、この「埼玉を代表する飲食店」に行ってみることになったのである。

そこで我々が食べたのは「かき揚げ丼とうどんともつ煮」がセットになったやつ。メニューを見るとかき揚げ丼ももつ煮も山田うどんの名物とのことだ。これがマズかった。

かき揚げ丼はスーパーの惣菜売場で売られている特に野菜の甘みとかも出ていない「とにかく安く天麩羅を作りました!」みたいものを化学調味料たっぷりの麺つゆで煮て玉子を絡めたもの。

玉子が半熟なのは良かったし、濃い味付けはメシが進む。どんぶりのメシの盛り付けもドカ盛でこいつを食べていると土方にでもなったような気持ちになる。味自体はもう食べたくないというレベルのものではないが、これにわざわざ金を払って食べようとは思わないくらいのマズさだった。


続いてうどん。
スーパーで30円くらいで売られている茹でうどん玉をほぐして、砂糖で甘みをつけた醤油の濃い蕎麦ツユみたいなのに入れたものである。関東の立ち食い蕎麦屋で出てくるうどんだ。麺には讃岐うどんのようなコシはないし、九州のうどんのようなクニュッとした靭やかさもない。単に歯を入れるとプツッと麺切れするタイプのうどんだ。

麺もツユもなんら惹かれるところのない「うどんという体を一応なしただけの食品」である。しかし、量だけはたっぷりとあり、前述の丼と相まって「炭水化物、糖質、カロリー」は容赦なく摂取できる土方仕様のメシだった。


かき揚げ丼、うどんとこれらは全く美味しくなかったのだけど、本当にマズかったのは「モツ煮」である。山田うどんではモツ煮のことを「パンチ」と称している。これは新メニューとしてモツ煮を出すことにした際に「パンチのあるメニュー名」を考えた末、そのまんま「パンチ」という名前にしたそうである。

山田うどんの名物メニューとのことだったが、あれを美味いという人はモツの臭みを「モツの芳しき香り」と捉えることの出来る稀有な才能の持ち主だ。

とにかくくさい。下処理を丁寧に行わずに作ったシロウト料理のもつ煮込みのようなくささだ。あれを名物なんて言って堂々と出すのも山田うどんの「凄い」ところだし、あれを美味そうに食べている人たちも「凄い」と思う。ひいては埼玉というところがとにかく「凄い」と思った。あんなの喜んで食べるやつもいれば、あれを胸を張って売物にする店があるのだ、とにかく凄い!


これを只で食べたとしても「無駄なもので貴重な一食分の楽しみを失ってしまった」ような気になるし、実際に僕はこんなものに金を払ってしまっているのである。

浪費や無駄遣いは本当に避けたいのだが、それでも今回の食事は面白かった。全く美味しくないしもう二度と食べないだろうが、負け惜しみではなくて本当に面白かったと今は思う。まあ、滅多に食べることのないマズいものだったのでいい勉強になったし、何がマズさの要素なのかを考えるのも楽しいものだ、もう食べないが…。