クレソンという植物について

この春からベランダ菜園でクレソンを育てているのだが、この植物について思うことを書いておく。

僕は紛うことない田舎者なのだけど、クレソンという野菜は子供の頃から身近な食物だった。

母親は洒落た料理をつくる女ではなかったので、ステーキの付合せにクレソンが出てきたこともない。この「ステーキ」という呼び方も僕が子供の頃には聞いたことがなく、我が家では「ビフテキ」とか「テキ」と称していた。そいつへの付合せは粉吹き芋とかニンジンのグラッセだったと思う。

ならばどんなスタイルの料理の時に食べていたのかは思い出せないのだけど、田舎の小川にクレソンがワサッと自生していたのだ。

これを沢山摘んできて、生野菜としてマヨネーズを付けて食べていた。単にそこらで無料で手に入る野草だったので我が家の食卓には結構な頻度で上っていたように思い出す。

僕のおじいちゃんはそいつを「ていらぎ」とも呼んでいた。ネットで調べてみると「ていらぎ」と「クレソン」はよく似ているしよく似た味なのだが別物らしい。

我が家で食べていたものが本当はどっちだったのかは分からないのだけど、僕たちはそれを「クレッソン」と呼び、特に嫌うことも喜ぶこともなく、普通の菜っ葉の一つとして生で食べていた。

一度に沢山摘んでくるものだから、水を張った洗桶いっぱいにクレッソンがあった光景を鮮明に思い出すことが出来る。


大人になって自炊するようになり、気の利いたスーパーで茎が太く爽やかな辛味のあるクレソンを買って食べるようになった。口の中に広がるスーッとした清涼感と辛味が美味しく、肉料理の付け合せにはクレソン…というのは、やはり美味しいものだと思う。

なんだか洒落た感じがして、そして美味しいクレソンをたまに買って食べていたのだが、このクレソンという野菜は安いものでもはない、高くもないのだけど…。

これをベランダ菜園で育てれば、いつでも安価に食べられるではないか!そんな期待からベランダ菜園での栽培に取り組んだのが、この春のことだ。



さて、そんなクレソンを栽培して気付いたことを挙げよう。

■クレソンは成長も早いけど劣化も早い!

種を植えてから一月くらいで緑の葉が茂り、一月半もすると摘み取って食べられるようになった。この成長の早さにも驚くのだけど、そんな葉っぱも2ヶ月もすると茎がガシガシに固くなり、それこそそこらの草を食べるような感じで全く美味しくないのだ。

2ヶ月もすると花を咲かせて、しばらく放って置くとすぐに種を付ける。ガシガシになった茎は固いだけでなく、苦味も強くて全く食欲をそそらない。

■とにかく虫がやってくる!

クレソンはアブラナ科の植物で、キャベツと同じように青虫たちの好物だ。僕のウチのクレソンには青虫だけだなくクロムシ(黒い芋虫)も現れた。

こいつらは食欲旺盛で数日目を離すと本当にクレソンが丸坊主になるくらいに葉っぱを食い荒らす。ほぼ毎日のように虫を探し出しては箸で摘み上げ、ベランダから外へと放り投げるのだけど、毎日毎日、どころから来たんだ⁉と不思議になるくらいの虫がいる。

こうなるとクレソンを食用に栽培しているのか?青虫牧場を営んでいるのか本当に分からないようなレベルである。


そんな訳で、僕は今後クレソンを育てることはないと思う。