山椒の苗

職場に仲の良い後輩がいる。

僕より一回り近く年下の彼女は新入社員のころから近しい部署にいて、もう10年以上の付き合いなのだが、初夏の頃に彼女から山椒の苗をもらった。

僕の漬けた青柴漬けをあげたところ彼女の家族(御両親)にも好評で、そのお礼として山椒の苗を貰ったのだ。ここの一家からは何かあげると(って、僕からの贈呈品はいつも漬物なのだけど)、気の利いたものお返しとしていただく。

卑しい話だが、そのお礼が嬉しくて「更に美味い漬物を漬けて贈呈しよう!」というモチベーションにもなっている。そうしたモチベーションの根源の一つが山椒の苗木なのだった。

…と言うことで以下、彼女のことを「山椒後輩」と記す。山椒後輩のうちは開業医で裕福だ。お金持ちであることは間違いないのだが、山椒後輩は実に庶民的でもある。

いつだか、僕のうちで酒を飲もうということになった時、おっさんである僕でも食傷気味になるほどの「コンビニのおっさん向けツマミ」をどっさりと持ってきたことがあった。

自分で言うのも何だが、気の利いた自作の酒肴を支度しておいた僕はコンビニツマミにほとんど手を出さなかったのだが、山椒後輩は各種酒肴を差別することなく豪快に食べ豪快に飲んだ。山椒後輩はそんなおっさんらしさを持つ人物なのでもある。


さて、そんな後輩のくれた山椒の苗木は貰ってから数週間してから大きな鉢へと植え替えた。6月の出来事だったと思う。そして、7月8月と山椒の苗は少しずつではあるが、着実に大きくなっている。



先週の土曜日のことだが、山椒に水をやるときに久しぶりにじっくりと眺めてみたらちょっとした異変に気が付いた。

山椒の葉っぱは一本の茎の両側に小さな葉っぱが15組くらい対になって生えるのだが、そのうちの一本の葉っぱがむしり取られたようになくなっていたのだった。

7月に別の後輩(舎弟のようなやつの方)が遊びに来た際に、山椒を見せびらかして、少しだけ葉っぱも食べたので、その時にむしったところがそのままになっているのだろうと思った。


さて、そしてこれは昨日の朝の様子だ。
明らかに葉っぱの多くが忽然と姿を消していた。

2日ぶりに見たらあからさまに葉っぱが減っているではないか!

「これは、なにかヤバいことが起きているようだな……」
ゴゴゴゴゴゴ……
「やれやれだぜ……」

↑僕の脳内にはこんな光景が広がっていた。

そこで山椒の鉢に接近して、細かに葉っぱを見ていくと!

堂々とこいつがいた。