絵本作家のせなけいこさんが亡くなったそうだ。
僕の育った家庭は幸いなことに絵本をはじめ、子供が興味を持った(持ちそうな)書籍はふんだんに買い与えてくれる環境だったが、「せなけいこ」という人をちゃんと知ったのは僕が人の親になってからのことだった。現在22歳の長男が小さな頃だったから、今から20年くらい昔のことだ。
ちぎり絵や切り絵による可愛らしい「昭和感」に溢れる絵本だが、「夜になっても眠らずにいたら、おばけに連れ去られる」とか「喧嘩の挙句、口が大きく伸びてしまって往生する」とか「幽霊が腹をすかせた末に行倒れる」とか、なかなか刺激的な話が多かった。
「幼児向けの絵本なのに、こんな展開アリ?」と不思議に思ったりもしたのだが、絵本の対象者である当の息子はこうした話にも大喜びし、その結果、僕は大凡の文章を今でも覚えているほどに何度も読み聞かせをさせられた。
「長男への絵本」として我が家に姿を現した「せなけいこ絵本」はその下の娘たち二人の愛読書にもなり、主要な作品が収められた「せなけいこおばけビデオ」みたいなVHSカセットも我が家のテレビで100回以上再生されたのだった。
今から10年近く昔のことになるのだが、書店で「せなけいこのキャラクターキーホルダー」が売られているのを見つけて、子供たちに買い与えた。主要キャラのウサギやオバケなど、4種類のものを買い父子4人でそれぞれ別のものを分けたが、3人の子供たちは今でもそれらをちゃんと持っているのだろうか?
そして5〜6年前には「せなけいこの自伝」を古本屋で見つけて買った。秋葉原のブックオフで買ったのでないかと思う。
キーホルダーと自伝の表紙にも載せられたウサギは「メガネうさぎ」と呼ばれるやつで、彼女(性別についての言及はないと思うのだけど、僕は性別不明な感じの女の子だと思っている…)とともに、せなけいこ絵本の二枚看板キャラクターであるオバケが登場する絵本の文章をよく覚えている。
『キャーッ』といったのはパパの方でした。なぜならパパはおひさまにあたると消えてしまうものですから…。
これは3歳くらいだった息子が大喜びしながら(時には本人が先に笑い過ぎながら…)、僕に何度も言って聞かせてくれていた部分だ。
本当は「パパ」の部分が「オバケ」なのだけど、このくだりをいたく気に入った息子は彼なりのアレンジを加えて、それを伝える対象者に置き換えて(おばあちゃんに話す時には、「おばあちゃんがキャーッと言った」ように…)、大得意になっていろんな人たちにこの物語の素晴らしさを知らしめる伝道師の役を担っていたことを覚えている。
「三つ子の魂…」ではないが「小さな頃に覚えた面白かったもの」は本当に記憶に残るものだ。我が家のガキどもの記憶にも「せなけいこ絵本」の面白さはしっかりと残っているはずだ。
そして、「三つ子」とは程遠い30歳近くになってからこれらに接した僕にとっても、我が子たちが目を輝かせて絵本に喜んでいた様子やら一緒にギャハギャハ笑いながら絵本を読んだ時のことは忘れられない思い出として深く記憶に残っている。
こうした楽しかったことを思い出しながら、せなけいこさんの冥福を祈る。
ありがとうございました。