今夜の食事は帰宅途中に近くのスーパーで買ってきた食材を用いて常夜鍋にした。
常夜鍋とは「豚肉と法蓮草」の鍋だと僕は認識しているが、今夜の菜っ葉は芹なのでこれは常夜鍋とは呼ばないのかも知れない。「芹と豚肉の鍋」というのが正しいのだろうか…。
芹と豚肉に「えらく安売りされていた厚揚」を加えて…というか無精して粉末の化学調味料出汁を加えたおつゆで厚揚を煮て、そこに芹と薄切りの豚肉を加えたものだ。そこで食べた厚揚こそがタイトルの「得体の知れん食物」だった。
見た感じは普通の厚揚なのだけど、妙にプニプニしているのだ。豆腐を鍋から呑水に移す時は崩れることのないように注意をするものだが、表面が揚げられて固められている厚揚は多少ぞんざいに扱っても崩れたりしない。しかし、今夜の厚揚は「箸で掴んだ時にも不思議なくらい」に固かった。
そいつを食べてみて驚いたのがプニプニという以上にモチモチというか、豆腐の一族とは思えないほどの弾力がある食物だった。
豆腐には豆腐ならではの味わいがあるが、そんな味わいよりも「この食物の弾力」が気になるレベル…。とにかく味なんて気にならないような弾力だが、口中で咀嚼しても全く豆腐の旨味を感じることはなく「蒟蒻ゼリーの親戚」でも食べているかのような食物だった。
あまりに不思議に感じたので、ゴミ箱に捨てていたパッケージを拾い出して、見返してみた。
原材料を見て驚いたのが「タピオカ澱粉」が加えられていること。豆腐と名のつくものの中にも「胡麻豆腐やら落花生豆腐」などは澱粉で汁を固めて豆腐状にしただけものでもあるし、そもそも玉子豆腐なんて茶碗蒸しを豆腐みたいな形にしただけのものなのだから、「豆腐と称す食物の自由な権利」みたいなものもあるのかも知れない。
しかし、こいつを正統派の厚揚だと思い込んで買ってきた僕は大きな詐欺にでもあったような気持ちになった。
まあ、100円で大振りな厚揚が二つ入ったものを買ってきたのだから「全く少額のチンケな詐欺」なのだろうし、そもそもそんな値段のものに飛びついてる自分の浅ましさを反省するべきなのかも知れない…。
パッケージの表を見てみると「もっちり新食感」とか書かれていた。そのコピーの通りに「もっちり」していて、僕がこれまでに味わったことのない「新食感」だったのだから広告に偽りはない…。
そして更に驚いたのがこいつが「何らかの食品賞」を獲得しているということ!よく見てみれば「日本食糧新聞社の食品ヒット大賞」とのこと…。
なにやら「食品産業を次の時代に導く羅針盤」のようだが、僕には全く賛同の出来ない羅針盤だった。もしかしたら、あと10年も経つと「モチモチしていない豆腐なんて、食べたくない。やっぱりタピオカ澱粉入りのものは美味しいね」なんていう食の嗜好が世の中の多くの人の中に出来上がっているのかも知れない…。
鮭といえば塩っ辛い新巻を焼いたものではなく、ブヨブヨの脂を無理やりに乗せた養殖サーモンのことを好きな人とか、鯛に至っても天然物の繊細な旨味を無視して「ギトギトした嫌らしい養殖物」を好む人がいるような状態だ。
プニプニ豆腐を好む人が現れる時代の流れには抗えないのかもしれないが「せめてパッケージにタピオカ入りの頭部ですよ」ということを目立つように書いて欲しい。
安売り品を好む賤しさが招いたことなので、そこは大いに反省するのだが、それでも「つまらんものを食べてしまった虚しさ」を感じる夜だった。