数日前のことだが、僕は珍しく外食で「世にいう御馳走」をいただいた。
来月には仕事上での「ちゃんとした接待」をせねばならぬため、その会場の選定の為の下見として候補店のランチ営業に出掛けた次第…。
営業マンであれば「接待会食に使える店をどれだけ知っているか?」ということも営業能力の一つとして評価されるのだが、僕は接待での会食は滅多にしない。「飲ませ食わせをせずとも、当社の商品を評価されるならそれでイイじゃん…」と思うからだ。そもそも、友人ではない取引先と食事をするのがそんなに好きでもない。
そんな具合だから「沼津の美味しい店」なんて本当に知らなくて、「沼津で会食するのですが、イイ店教えてください」なんて質問には「ああ、食べログではここが評価高いね。行ったことないけど。でも、沼津の食べログなんて本当にアテにならないし、俺もイイ店なんて知らないのよ…」って返すことが多いから営業マンとしても社内でナメられる…。
会食をしなくともそれなりの成果を挙げられているのなら、それで充分じゃないか?と思っているし、帰宅して自分で作ったメシを食べることとか、その自炊料理の出来映えの方がずっと大切だと思うから…。
…なんて言う僕の嗜好とは関係なく「仕事の上での接待の必要」なんてものはやって来る。それに対応するために候補店のメシを食べてきた。
この日、僕が食べたのは翡翠茄子と湯葉のあんかけ、蓬麩と蛸の柔らか煮、鱧皮の酢の物、鰹·鮪·鱧の造り、鰻の干物、アイナメの焼き物、握り寿司、赤出汁、最中。
数日前から暑い日が続いているが、不快な暑さは鱧を一層美味しくしてくれるような気がした。鱧の旨味とそれを引き締める梅肉。この時期ならでは感じることの出来る味だと思った。
煮魚ではないアイナメを初めて食べたし、鰻の干物も初めて食べた。いずれも非常に美味しかったが、握り寿司のシャリの味がしつこく、これまで食べてきたものの旨味の記憶をかき消す不味さだったの本当に残念だった。酸味と甘みが気になって、米の味も魚の味も分からなかった。
あと、食事の途中で出汁汁を器に移して飲ませてくれた。一番出汁ですよ…と恭しく自慢気に出してくれたが、だから何?という味だった。普通に高価な昆布と鰹を使えば誰でも作れる普通に美味しい出汁だ。
こちらはちゃんと出汁をとっていますよ…とアピールしたいのだろうか?そんなアピールなんて不要で、それらを使った料理を誠実に出してくればイイだけなのに、イキったアピールをしてくることも実に残念だった。
ここの料理はしっかりと丁寧に作られたものではあるから不味くはない。不味いのは鮨のシャリくらい。更に綺麗な器に装われて出てくるのだから「家庭料理ではない外で食べるメシの楽しさ」はあった。しかし、それぞれの料理の味付けはお金と時間をかければ僕でも作れそうな味だった。
まあ、こういう店は食品原価や味だけではない。そこの空間に支払うお金が沢山乗せられているのだ。この昼食代は経費で落とす。僕の財布が痛む訳ではないから無邪気に楽しもう…と思っていたが、「会社の金であってもここのこの料理にこの金を払うのは勿体ないなあ」と気になり、手放しでは楽しめなかった。