ゴールデンウィーク中に、山葵の花を買った。
春に出回る山葵の葉や茎、そして蕾は柔らかく美味しい。3月の中旬くらいから4月に終わりくらいまでのものだと思うから、名残の山葵である。
この山葵は醤油漬けにする。
山葵漬けというと酒粕で漬けたものが全国的には一般的なのだろう。あれも美味しいし、自分で漬けるのだけど、僕の生まれ育った地方では、山葵の葉の醤油漬けが一般的な山葵漬けだった。
中学一年生の時には既にとても好きで、シーズンを楽しみにしていた記憶がある。
買ってきた山葵の束を3センチ程度に刻む。笊に移し、そこにざっとお湯をかける。お湯をかけたら急いで水をかけて、熱を取る。
山葵に含まれる辛子成分、アリルイソチアシアネートは爽やかな辛味をもたらしてくれるが、揮発性で意外に簡単に放出されてしまうのだ。
ちなみにアリルイソチアシアネートという名前は、昔、仕事で山葵のことを調べていて、大学の先生に話を聞きに行ったときに教えてもらった。その際に、山葵の辛味は酵素の働きや刺激で活性化する。気の抜けたおろし山葵にレモン汁をかけると辛さが幾分か復活することも教えてもらったのを思い出した。それ以来、難しい単語ではあるが、僕の頭からは忘れ去られることもなく山葵を目にする度に脳内に登場する。
さて、山葵漬けに話を戻すと、軽く熱の刺激を与えてやり、そいつを醤油を合わせて瓶などの密閉容器に詰め込む。熱と塩分による刺激で、山葵の茎や葉、そして蕾から辛味成分が滲み出てくる。
瓶の中で熟成を進める点なんて、シャンパンの製法に似ているような気がするが、シャンパンは泡が命!のように山葵漬けも辛味が命だ。山葵の葉や茎が持っているアリルイソチアシアネートをとにかく逃がさないように、熱の加えかたと塩分の加えかたには細心の注意を払う。山葵の醤油漬けを作りようになってもう20年近くになるが、たまに失敗することもある。
作り方にもよるのだけど、仕込んでからおよそ1週間。瓶の蓋を開けると、それだけで失明しそうなくらいの辛味を帯びた香気が出ていれば大成功。
そのまま食べてよし、メシによし、刺身と一緒に食べてもよし。春の一時期にしか楽しめない繊細でシャープな山葵漬けだ。
これが終わるといよいよ夏が始まる。
開けっ広げな解放感、大味だけどよく言えば豪快な美味しさを持つ食材、春とも違う楽しみに溢れる季節だ。それまでもうしばらくの間だけど、名残の春を楽しみたい。
花束を買うことは滅多にない。若い頃は何かある時に薔薇の花を買ったことなどもあるが…。
今、一番好きな花束がこれ。一把300円くらいのものが二把で150円になっていたものを買い求めた。春の終わりが近付いていることを感じさせてくれる花束である。