スパゲッティのこと②

伊丹十三村上春樹の文章にも登場するが、さらっとスパゲッティを大鍋で茹でて調理するようになって長い。しかし、僕自身の生活に「乾麺のスパゲッティ」が登場するようになったのは小学校高学年くらいからだと思う。


幼稚園の頃「母の作る弁当が焼そば」ということがあった。多分、マルちゃんとかの粉末ソースが付属で付いている茹で麺をキャベツなどと一緒にフライパンで炒めたものが、弁当箱一面に敷き詰められていて、ゆで卵を半分に切ったものも乗せられていた気がする。

この焼そば弁当を特にリクエストをした覚えはないのだけど、何度となくそれなりの頻度で登場していた気がする。母親が子供の弁当を作るうえで楽だったのだろう。

ある日のこと。僕の焼そば弁当を見つけた近くの席の女の子が「あっ、スパゲッティだ!」ととても羨ましがった。「これはスパゲッティではない、焼そばである」と明確の返答もできない僕は、為すがままに羨ましがられながら、スパゲッティと呼ばれる焼そば弁当を食べた。

数日後からその女の子の弁当に一面のスパゲッティが登場するようになったのを覚えている。しかし、僕の焼そば弁当がスパゲッティに変わることはなかった…。


さて、乾麺のスパゲッティについてだが、どういう経緯で我が家に導入されたのかは知らない。そもそも、家庭で食べるスパゲッティはその昔は茹で麺として売られている麺をフライパンで炒めたものだったはずだ。

ただ、小学生高学年の頃には、日曜日の昼食に大鍋で麺を茹でて、缶詰のミートソースを温めて食べていたことを「アッコにおまかせ」とか「のど自慢」なんかの映像とともに思い出す。

当時は缶詰のミートソースが最高に美味しいスパゲッティソースだと思っていた。そりゃそうだ。外で食べることもないから、比較することすら知らないのだから。手作りのパスタソースなんてものが僕のなかで市民権を得るのは何年も後のことになる。

そして、麺については、もちろんアルデンテであるはずなどない。断言できる。なぜなら、茹で上がった麺をザルにあげ、それをマーガリンかサラダオイルとかで軽く炒めたものに缶詰のソースだとかをかけて食べていたのだから、茹でたての麺のコシなど残っているわけはない。


今、こうして小学生の頃のスパゲッティを回想すると、今すぐにタイムマシンに乗って当時の僕たちにもっと美味しいスパゲッティを食べさせてやりたい気持ちになるのだが、当時はなんの不満もなく美味しいスパゲッティを食べているものだと思っていた。

缶詰のミートソースはその後、高校を卒業して実家を離れるまではずっと家庭内ではスタンダードだったと思う。

今、本当に普通の家庭の子供たちのスパゲッティのスタンダードはなんなのだろう。麺ごと冷凍されているやつなのかな。レンジで温めるだけならば、まだ「乾麺&缶詰」の方が暖かみがあるように思うのは、自己弁護みたいなものなのかも知れないけど。


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