バジルスパゲッティについて②

続けてバジルのスパゲッティのことを書く。

そいつを食べてはいたものの、特別に好きでも嫌いでもなかったバジルスパゲッティを僕があらためて好きになるのは社会人になってからだ。

僕が大学生の後半〜社会人になりたての頃はバブル終了後のイタメシブーム(?)で、日本人がやたらにワインを飲んでいた。

今思い返すと、本当にそこら中で「ワインを飲む」という行為が常識のように捉えられていたように思う。おかしなブームだ。居酒屋で焼き鳥を食べながらワイン!というのが普通になっていたくらいだし、馬鹿大学生の僕ですらワインを飲むくらいだもの!大学生は安い焼酎を飲んでおけ!と当時の僕を叱りたい…。


さて、流行りものにすぐに乗る僕もフルボディのチリワインを買って来て、ビールをやめてワインを飲むようになっていたのだ。…と言っても全面切り替えではない。ワインを飲む頻度が増えたのだ。

その頃の僕が好んでいたスタンダードはバーボンだった。バーボンをハイボールにして飲むのが好きだった。当時はフォアローゼズを好んでいたが、その他にはハーパーとかアーリータイムスとか、少し奮発する時はジャックダニエルを飲んでいた。バーボンが今よりも安くに売られていたのだ。


ワインを飲む頻度が増えると酒と共に楽しむメシもイタリア的なものが増える。刺身で赤ワインを美味しく飲めるかと言うと、そんな頓珍漢な組み合わせには挑戦しなかった。

トマトで煮込んだものもとか、クラッカーをブルスケッタみたいにしたものを作って、よく食べていたし、イタリア料理店にも居酒屋に行くような感覚で頻繁に行っていた。

今思えば、一番安い軽めの赤ワインをガブガブ飲んで、大してうまくもない料理にそれなりの金を払っていたのどけど、これは勿体ないことだったと思う。徹底して自宅でイタメシを作るようにして、自宅で安ワインを飲んで、その金を貯蓄しておくべきだった………けど、今更どうにもならない。


そんな自炊生活の中で「瓶詰めのバジルソース」を買ってきたことが、バジル再発見のきっかけだった。その瓶詰めは「ジェノベーゼ」だったのである。

なぜ瓶詰めのジェノベーゼソースを買ったのかは覚えていないけれど、これが美味しかった。若かったので単に濃くてコッテリしたものが好きだったのかも知れない。

しかし、ジェノベーゼは今でも好きだ!と言っても滅多に食べることもないのだけれど…。


パンチのあるバジルの香りに負けないようなチーズとナッツの旨さ!美味さではない。「旨さ」である。

この美味しさを知ってから僕はバジルの苗を買ってきて、窓辺でバジルを栽培して、そいつの葉を細かく刻んでパルメジャーノと混ぜてオリジナルのバジルスパゲティを楽しんだりもしていた。



そして30歳くらいのこと。

東京に住んでいた僕は、予てから書籍で読んで憧れていた六本木飯倉の名店「キャンティ」に足を運び、そこのバジリコスパゲティ、正確に言うと「スパゲティバジリコ」を食べた。

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スタイリッシュさを重んじていた軽薄で馬鹿モノの当時の僕には「キャンティでスパゲティを食べる」という行為は100点満点の喜びであったが、今は食べない。なんと言っても高価すぎるから…。



その後も僕は、自宅ではジェノベーゼを作ることは殆どなかったが、たまたま表の店でスパゲティを食べる時にはジェノベーゼを食べることも多い。今は若くもないけど、やはり美味しいと思うのだ。

スパゲティ作りの魅力は「男が魅了されるホビー性があることだ」と、過去にこのブログに書いたことがある。しかし、それだけではなくて、僕が青春〜青年〜中年と、歳を重ねていく際に身近にあった「世相と財布事情」を反映した食物である…ということも、その魅力の要素なのだろうと今思った。