その土地の料理とかけ離れること

一昨日、娘ふたりと一緒にスパゲッティを作ったのだが、それをきっかけに一つ面白いことを知ったので記しておく。


世に言う「ジェノベーゼ」を作ったのだけど、娘たちは言葉を聞いただけではそれがどんな食物なのかを想像出来なかった。

ジェノバ風のやつだよ」とジェノバはおろか、ヨーロッパにすら行ったことのない僕が彼女たちに想像することを促してみたが、
「オリーブオイル使ったやつ?」とか
「ニンニク入れたやつ?」と普通のイタリア料理のことしか頭には浮かばない様子だった。

まあ、それもそうだろう。僕が彼女らの前で料理を作る時、オリーブオイルとニンニクを使ったものこそがイタリア料理であり、むしろこれらで調理したものしかイタリア料理ではないくらいに、娘たちに刷り込んでいたように思うから…。


僕のウチの下の階にもイタリア料理店があるし、数件隣にもイタリア料理店がある。この数件隣の店の換気口が通りに面していて、休日になると昼時にニンニクをオリーブオイルで熱した「典型的なイタリア臭」を漂わせている。

これは休日に限らず、きっと毎日のことなのだが、平日仕事に出掛けている僕は昼間にその匂いを嗅ぐこともない。休みの日にウチにいるとこのイタリア臭が立ち込める時間帯がある。

オリーブオイルとニンニクの香りは食欲を擽るイイ香りなのだが、布団やら洗濯物を干しているベランダで、近隣のレストランから漂ってくるものは、既に香りなんかではなく「イタリア臭」として臭いものでしかない。洗濯物にこの臭いがつかないかが気にかかるのだ。


さて、今回のスパゲッティにはニンニクもオリーブオイルも使用しない。使用食材はバジルの葉、カシューナッツ(松の実の安価代用品)、パルメジャーノチーズ、太白胡麻油だ。

娘たちの思うであろうイタリアン必須食材を欠いた料理を支度しながら、中学生の娘に「ジェノベーゼ」という言葉を検索させて、その説明を音読させておいて、皆でそれを聞きながらジェノベーゼ作りを行うことにした。



ネットでジェノベーゼを調べると、数々の緑色のスパゲッティのことが出てくると思うのだけど、この日ウチの女子中学生から説明されたジェノベーゼの概要というのは以下のようなものだった。

ジェノバではバジルの緑のスパゲッティをジェノベーゼとは呼ばない。

ジェノベーゼと言って出てくるスパゲッティは牛肉を煮込んだソースのかかった茶色いものである。

末娘によるこうした説明を聞きながら、僕と長女は目の前でカシューナッツやらパルメザンを触っている。牛肉という食材は目の前にはおろか、我が家の冷蔵庫を探したところでどこにもない。

この説明を聞き続けると、不条理な漫画の登場人物のように精神分裂しかねない「眼の前の矛盾」にぶち当たったので、「ジェノベーゼについてのその説明を読むこと」を止めて調理を続けた。



その翌日、バジルのスパゲッティを作ったことを僕はこのブログに記していた。仕事から帰宅して簡単な食事を済ませて、ブログを書いていた時に末娘が朗読していた「ジェノベーゼは緑ではない説」のことを思い出した。

ブログを書き終えてから、検索してみると、きっと娘が読んだものであろう「ジェノベーゼの説明記事」に辿り着いた。

緑のものをジェノベーゼと呼ばない背景については以下に画像を貼り付けておく。

とても面白いことで、とても恥ずかしいことだった。
僕は今後バジルペーストのことをジェノベーゼとは呼ばない。

ものの呼び方を略すことはよくあるし、そうして出来上がった「間違った語源による新造語」も沢山ある。

例えば「チューハイ」という言葉は「焼酎+ハイボール=焼酎の炭酸割」なのだけど、「烏龍ハイ」というものは烏龍茶を炭酸で割ったものではない。正しくは「焼酎の烏龍割」なのか「烏龍酎」なのだ。

そんな感じで「ジェノベーゼペーストのスパゲッティ」がジェノベーゼだけ残ることになったのだろう。ジェノバでは別のスパゲッティを食べているというのに!


なんて思っていたら、「ナポリタン」というナポリには存在しないもはや国籍不明(というか国籍は日本!)のイタリア料理のことを思い出した…。

まあ、日本の料理なんて換骨奪胎の寄せ集めのようなものだから、こうなるのも仕方ないか。