蕨を食べる

昨日、出掛けた先で蕨を買った。

蕨という食品は子供の頃は山村…というかド田舎に住んでいたこともあり、春になると祖父祖母、そして父母、一家総出で蕨を摘みに出掛けてよく食べたものだ。

小さな頃は、僕がちゃんと蕨を見つけて摘み取ると祖父やら祖母が大層に褒めてくれるものだから小さな僕も嬉しくなり、それこそ「蕨摘み名人」のようにそいつを見つけ出しては収穫していた。

そのうち、そんなことのために山に出掛けるよりも、遊園地とか田舎だから大した商店なもなくても買物に出掛けるほうが楽しいのに、なぜウチはこんな野良仕事みたいなことばかりの休日を過ごすのだろう…と幼心にも不満を抱いていたことを思い出す。

そんな不満が噴出したのは小学3年生の時のことで、この年も一家で蕨狩りに精を出していたのだけど、とにかく僕はそれが不満でいい加減な態度でテキトーに参加していた。そんな時におじいちゃんがなんだか僕の癇に障ることを言ったので、僕はそれに対して腹を立てておじいちゃんの持っていたピッケルを取ってそいつをおじいちゃんの腿を打ち込んだ…。

おじいちゃんは「あいたたた…」と倒れ込み、それに怖くなった僕はその場から逃げたしたことは覚えている。だだっ広い山の比較的広い道を走って逃げ出すのだ。

今思うと「家庭内暴力」とか「キレた小学生の凶行」みたいに思うのだけど、その後、僕がどれほど叱られたのかの記憶はない。叱られていないはずもないから、僕の中での「都合の悪い記憶を消す装置」が作動しただけなのだと思う。

これが僕にとっての一番の「蕨の記憶」。厳密に言うと「蕨狩りの記憶」なのかも知れないし、「おじいちゃんに暴力を振るった唯一の記憶」なのかも知れない。