散歩の途中でなにか「の」食べる話

先日のことだ。銀座でスパゲッティを食べた僕たち父子はその界隈をぶらついていた。

スパゲッティを食べさせる店から近くにある大衆割烹もその昼の食事候補店だったのだが、この日行かなかったその店のそばで僕たちは喋っていた。看板のメニューを見ながら…。

刺身定食やらフライの定食やら、あるいは魚の煮付けに鳥豆腐のついた魅惑的な献立を見ながら「今度、食べに行ったらいいよ。今日はスパゲッティだったけど…」みたいな他愛のない話だ。

昼過ぎに僕たち父子が店の看板の前でそんなことを話していたら一人のおじいちゃんが僕たちに話しかけてきた。

「銀座の路地裏のこの名店で昼から酒を嗜み多少メートルを上げた御仁」か…と思ったら、とまさにその通りでもあったのだが、なんとその方はその名店の創業者だった。周囲を通る人たちには祖父・父親・孫の4人グループが昼から酒をあおって路地で話をしているように見えたかも知れない。

そのおじいちゃんは今からおよそ60年前に店を始めた時のこと。それは「直ぐ側に新聞の販売店があった」とか「当時と今の家賃の変遷」とか「一族で屋号を使って儲けて行くための経緯」とか…興味のない人には理由の分からぬ話だったのかも知れないが、僕にとってはとても興味深い話の数々だった。

当たり前だが、名店と称される店には長さや深さはともかく歴史やら背景はあるものだった。そんなことをその当事者から、その店のド真ん前で聞くことが出来たのはとても面白い経験だった。

銀座三州屋。今では足を運ぶこともすっかり減ってしまったけど、僕はこの店が大好きだ。