銀座でスパゲッティを食べたこと

もう10日も前のことだが、息子と娘の二人とともに銀座でスパゲッティを食べた。

その昔、銀座で働いていた時には時折足を運んでいた昭和洋食なスパゲッティを食べさせる店だ。

昭和洋食と言ってもうどんのように太い炒め麺を特盛で食べさせる有楽町の名店ではない。換骨奪胎した日本風のスパゲッティを「列記とした」など言うのもおかしな気がするが、列記とした日本洋食としてのイタリア料理店のものである。

薄暗い照明にギンガムチェックのテーブルクロス。そこらで見かける菰に包まれたキャンティのボトル。今ではそんなに見ることもなくなったクラシカルスタイルのイタリア洋食店だ。

 

味はまあまあ。決して悪くない。それ以上にホール係の慇懃とも言えるようなサービスがこの街ではスノッブで心地よいもののようにも感じられる。腹と舌だけではなく、それ以外の感度にウエイトをおいてメシを味わう店。そんな感じが銀座らしくて僕はこの店を好きだった。

息子も娘も「そこを感じ取るためにこの店に来た」ということはすぐに理解した様子だった。しかし、店を出て銀座をぶらついているときに「あの店のスパゲッティだったら、パパは完コピ出来るよね」と娘が発した。

そのとおりである。そもそも、コピー出来ないスパゲッティのほうが少ないくらい、「スパゲッティってのは家庭料理なんですよ©伊丹十三」なのである。そんなことを話しながら親子3人で銀座を歩いた時間は本当に楽しかった。