春の味

春も終わった。一昨日からの数日が夏のような日差しが降り注いでいて気温が高くなったからそう思うのではない。5月は夏なのだ、僕の中では。初夏と言うのが一番正しい表現なのかも知れないけど。

東京には沼津から色々な食物を持ってきた。特に沼津らしいお土産を…というようなものではない。僕が一人で暮らしていると食べないものというのもそれなりに生まれてくる。そうしたものと手作りの漬物などだ。

前者ではチョコレートとか和菓子など。貰いものだが食べないものというのもそれなりに溜まってくるものだ。そして後者は梅干と山葵漬だった。

この冬〜春にかけてはよく山葵を漬けた。沼津に越してきてからも一番の利点は「イイ山葵を入手しやすくなったこと」だ。きっぱりとそう思う。ただ、沼津でも手に入る山葵は多少鮮度に難があるもので(価格は安いのだけど)、本当に鮮度、価格ともに素晴らしいものは天城に行かないと手に入らない。

このゴールデンウィーク前に山葵漬を漬けたくて仕事のついでに天城にも立ち寄ったのだが、その日はわさびの茎や葉は売られておらず、仕方がないので大振りの根っこ2本を600円で買ってきた。これも相当安い。

この山葵としばらく前に漬け込んだ山葵の醤油漬けを息子娘の下宿に持ち込み、翌朝、炊きたてのメシとともに食べた。

沼津に来てから「比較的容易に山葵が手に入ること」そして「そうした山葵をとにかく辛く漬けたい」という思いが良くない方向に作用して、不味い山葵漬を作るようになってしまっていた。3月にこのことに気がついてからは、失明しそうに辛い山葵を漬けているが、この日の山葵漬は既に日が経ちすぎていて「失明レベル」ではないものの「鼻は痛いレベル」には戦闘力を保ったものだった。

シャキシャキと歯応えの心地よい山葵の茎と葉、そしてネットリと柔らかく濃厚な山葵の根。鼻の奥にガツンと来る痛みと、その後に吹き抜けていく清涼感溢れる香り。名残の山葵の美味さに舌鼓を打っていると春は終わる。