名曲に登場する花

この春、留年とかせずに無事に中学校を卒業出来ることになった末娘が昨日から今日にかけて我が家に遊びに来た。

昨夜は夕食後に「サウンド・オブ・ミュージック」を一緒に見た。この作品はベタではあるし子供向けのものなのかも知れないが、主張と見せ場がストレートに表現されていて僕は名作だと思っている。娘が小さな頃は度々見ていたように思うが、この数年は一緒に見ていなかったはずだ。そして僕が一人で見ることもないのでこれを見ること自体久しぶりのことだった。

その翌日…って、今日のことだけど、朝食を摂った我々は沼津の千本浜公園に出掛けた。千本松公園だったかも知れないが、僕にとってはそんなのどっちでもいいことだ。

とても沢山の松が立ち生える松林の中で娘が立ち止まって一つの花に興味を示した。

白く小さな花だった。

ここに来るまでに僕たちは生活排水も流れて出てきそうだけど水が澄んで綺麗に見える小川沿いを歩いてきた。その小川には「ていらぎ」が沢山生えていたので水質も奇麗な川だったのだろう。ただ「ていらぎに見えるソレ」が本当にていらぎがどうか不安だったので、グーグルレンズで写真を撮り確かめたりしていた。結果、そいつはクレソンと表示されたので僕の見立ては完全正解ではなかった。

そんなこともあってか、どうやら娘は僕にグーグルレンズでこの白い花の正体を突き止めて欲しい様子だった。ストレートにそうは言わないのだが、奴が望むことなど親ならだいたい分かるものだ。

携帯を取り出し起動させる間に娘はこんなことを言った。「昨日、映画で見たエーデルワイスもこんな感じだったよね。」

そう、まさに昨日サウンド・オブ・ミュージックに出てきた花は小ぶりで白く、こんな感じだった。僕はそれまでエーデルワイスとはユリの花のことだと思っていて、昨夜も映画冒頭部分の丘のシーンのときには「こんな丘でユリみたいな花を見つけたらエーデルワイスを歌いたいな」とか娘に話しかけていた。それは僕の勘違いによる全くの間違いだったのだが…。

劇中でナチの独裁国家となったドイツに侵略されながら祖国の誇りと愛を貫く軍人である父親が歌うエーデルワイスは素晴らしく、その父を支えるように家族皆が合唱に加わる場面は名シーンの一つと言えるだろう。そんな思い出深いシーンを彩った花と沼津の公園で出会えたことに僕たち父子は少し感動していた。

 

……。

…………。

グーグルレンズによるとこいつはエーデルワイスなどではなく、花ニラとのこと。それを知った娘は細長いその葉っぱを一切れ摘み取り、その切れ端を鼻に持っていって香りを確認してみて「クサッ!」と大きな声を発した…。

…だよね、こんなところにはエーデルワイスはないよね…。僕たちはそれまでの話題を180度転換させて「ニラ玉って美味しいよね」「あれは白いメシが進むよね」とか「お前、ニラレバも好きだろ?」なんてことを喋りながら、松原を後にしたのである。