捨てる神あれば拾う神あり。

沼津に越してきてから一月半くらい経った頃だったかと思うが、僕は古本屋で一冊の本を買った。それは「まんが日本昔話」の絵本で、常田冨士夫と市原悦子のナレーションが素晴らしい名作アニメである。

僕が幼稚園の頃、おじいちゃんが絵本を買ってくれ、毎週のようにテレビアニメも楽しく視聴し、休みになるとカルタまで家族皆で楽しむ…という一家総出で夢中になるほどの名作だった。

年末やらお正月の皆で一緒に遊ぶ時期のみならず、時間があればしょっちゅうカルタをやっていたように思うし、ドーナツ盤のレコード(かもとりごんべえが収録)もよく聞いていた。

家庭用のビデオデッキなど普及していない時代だし、週一回のアニメを逃してもその後何度となく反芻するためにレコードやらカルタ、そして絵本に楽しく接していたのだった。

 

そんな名作はやはり時代を超えて受け継がれるもので、僕に子供が出来て間もないくらいに僕の母親がVHSの10巻組くらいのセットを「孫に!」ということ買って送ってくれた。

こんなこともあり、我が家では僕のおじいちゃんの代から息子娘たちに至るまでの4世代でこの作品と触れ合っている。

 

古本屋で買ったこの本は傷みもほとんどなく綺麗なものだったが、元の持ち主が廃品回収にでも出していたら僕と巡り合うこともなかっただろう。

これに収録されている沢山の作品の中には「貧乏神と福の神」もある。タイトルにした「捨てる神……」と反して、その物語は「捨てられる神と拾われる神」の話なのだが、読み終えた本の行く末とは別にタイトルに合致するようなことがあったのでこちらに記しておく。

 

今朝、僕は一通のラインメッセージを受け取った。山椒をくれたり、僕が漬物をあげたりする後輩からのもので「瓶いりますか?」とのものだった。

数日前に山葵を漬け込み、空瓶のストックがなくなっていたことを知ってかのようなメッセージである。

沼津に転勤してから「瓶を欲しがるおっさん先輩」のことは忘れ去られていたかと思ったが、僕たちの絆は僕の予想以上に強かったようだ。

漬け込んだ山葵たちもちょうど食べ頃を迎えている。感謝の気持ちとともに後輩にしっかりと送ってやろうと思う。