秋の御馳走についての備忘録③

今日も先日食べた御馳走について。

振り返ると我ながら美味しそうなものを食べていることを羨ましくなるほどだ。

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こちらは藻屑蟹。
川で採れる蟹で、故郷の味でもある。

この蟹は日本一美味いと信じている鮎の産地、高津川の産である。高津川には質のいい苔が生えているから、それらを食んで育つ鮎もいい香りがする。

藻屑蟹が何を食べているのか詳しくは知らないが、そうした苔を食べているのか?あるいは、その苔で育った鮎を食べているのか?

いずれにしても、美味い鮎が育ついい環境で育った蟹なので、蟹自体の生き物としての質もあるだろうけど、高津川の藻屑蟹はとりわけ美味いと思った。

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今回、三匹の蟹を食べた。
食べてみて驚いたのは蟹それぞれに個性があるということ。藻屑蟹自体、味噌がたっぷりと詰まったものだったのだが、味噌の質が三者三様、全く違うものだったことに本当に驚いた。

黄色味の濃いものは、きっと川を泳ぐ魚をたっぷりと食べたものだろう。甘みもあるが、なんと言っても味噌のコクが素晴らしかった。そのコクが魚による動物性の旨味なのか確かなことは分からないが、とにかく濃厚で美味い、いや、旨いというのが当てはまるような味だった。

また別のものは、深緑色の味噌が沢山入っていた。
これは明らかに清流に生え茂る苔由来の味なのだろう。清流そのものの旨味(どんなだ?)に満ち溢れていた。

もう一つのものは、本当に「その中間」という感じで、よく言えば非常にバランスの取れた味、無理矢理に悪く言うならば強烈な個性は持たない味、というところだった。



子供の頃、家のすぐ裏を川が流れていた。
その川にも藻屑蟹がいて、遊んでいる最中に捕まえたものをうちに持ち帰って、茹でて食べていたものだ。2年に一度くらいの頻度だから、たまにしか食べないのだけど。

そして、高校生の頃だと思うが、父が友人を集めて藻屑蟹を食べる会食を自宅で開いたことがあった。父は決して社交的ではなかったので、こうした会食も滅多に行われないレアなイベントなのだが、このとき僕は二階の自室にいて、一階の台所から登ってくるある匂いに気が付いた。

川の匂い!なのだ。
僕の食欲がそそられることはなかった。
ドブ川なんかではない。清流の類に分類されるであろう川の匂いだが、このときは嫌な匂いだと思ったことを覚えている。

この日から藻屑蟹にもあまり興味も沸かず、そもそも「蟹自体のありがられ方」に疑問を持って暮らしている。従って、「蟹という食品自体」たいして美味いものでもないと思っているのだが、先日の藻屑蟹は美味であった。