大人っぽい振る舞い

先日の「旅行の思い出」を記す。

僕にとってはとても珍しいことなのだけど、先日「観光ホテル」に宿泊した。僕自身は宿泊するところがビジネスホテルであろうが、仮にどこかの倉庫のようなところであろうとも、寝床さえあれば僕なりに旅情を高めてその町の味を楽しみ、それらで酒を飲むことによって充分に旅気分を楽しむことが出来るのだけど、この日は思うところあって「分不相応なホテル」に泊まったのだった。この背景については前項に記したとおり。

さて、このホテルの見せ場の一つと僕が捉えていたのは「そのビュフェダイニング」だ。

これらの写真は宿泊した時に撮ったものでもなく、ネット上の画像なのだが、この画像以上に胸が高まる空間なのだ!…と僕は思っている。空間は本当に素晴らしい。

国会議事堂の議場…いや、昭和の映画スターたちが夜を楽しんだ赤坂のグランドキャバレーのような佇まい…。その両者を僕は実際には知らないのだけど、勝手にそんなところで豪遊するような気持ちになって僕たち父子は熱海の夜を満喫した。

半年前から「この空間で過ごす一時」に憧れて、僕の中での期待値ばかりが上昇していたこともあるのだろうけど、はっきり言って「このビュフェの味は大したことない」。繰り返すが「ここのメシは特に美味くはない」。見た感じは凄いのだけど…。

ビュフェに並ぶ豪華絢爛に見えるだけの料理やらライブキッチンで恭しく供される豪華っぽい料理をめいめいが皿に取り、皆が揃って迎えた「乾杯!いただきます!」のタイミング…。

そこから5分もしないうちに「あれっ?味は……。う〜ん大したことないね…。」と皆が気付いたのだと思うけど、誰もその一言は発することなく僕たち一行は昭和スターのような気持ちになりながら楽しく夕餉を楽しんだ。

結局、味についての感想を口にせずにはいられなくなった僕が「なぁみんな、ここの料理ってさあ…」と味についての辛辣な感想を話し始めたのだけど、それを遮ったのは長女だった。

「……そんなことは皆が分かっている。でも、ここでの楽しみ方は味そのものではなくて、この会場の雰囲気だし、それが楽しいのだからそれでイイじゃん…」と娘は口にこそしなかったが、そんな気遣いあっての振る舞いのように僕には思われた。

物事には、そのものの一つの価値に人が気付いて残念に思うようなことも多くある。しかし、それに気付かないふりをして軽く流しながら総合的な判断をしながらその場は楽しむという大人の術もある。

この日のホストであり財布役であった僕には「そうした大人の対応」が欠如していたのかも知れないし、日々の生活においてもこうした配慮は欠けているのだろう。

楽しそうにおそらく初めての観光ホテルの夜を過ごす娘を見て、僕はなんだか恥ずかしいような気持ちになった…。

しかし、翌朝の朝食ビュフェの際にも「やっぱさあ、ここのメシって見たほど美味くない…。いや、全然美味くないよねえ!なんなら不味い、マジで!」とデリカシーのない発言をしてしまう僕がいたのだった…。